加納エミリ|新しいアイドルの可能性を私が作りたいな、って

加納エミリ|新しいアイドルの可能性を私が作りたいな、って


日本特有の美意識として知られる「わび」「さび」。とりわけ「わび」は、岡倉天心が著書『The Book of Tea』で「imperfect」という形容詞を用いて表現したことからも分かるように、「不完全なものを愛でる」といった感覚であり、いかにも日本独特の“抑制された美的センス”と言うべきものだ。

それはある意味、これまた日本特有と言うべき“アイドル文化”と相通じるものがあるのではないだろうか。しばしばK-POPアイドルは「完成された表現を競い合うもの」、一方日本のアイドルは「拙いものが成長していく様を愛おしむもの」といった対比で語られる。そういう意味では、日本特有の“アイドル文化”の根底には、不完全なものに美を見い出す「わび」があると言えないだろうか。

そして、この加納エミリ。インタビュー中でも語られているように、「不完全なもの」「隙のあるもの」に惹かれ、そうした音楽を自らの手で作り、歌い踊る”アイドル”である。そういう意味では、アイドルとしてはかなりの”飛び道具”ではありながら、今最もアイドルの本質に迫る、さらに言えば、日本の伝統的美意識を新鮮な形で体現する”アイドルアーティスト”と言えるかもしれない。ニュー・オーダーやオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、カイリー・ミノーグや森高千里などを連想させる、古き良き、そしてちょっとダサいとされていたエレポップを新鮮な筆致で描き直したサウンドと、一度目にしたらなかなか頭から離れない”衝撃的”とも言える振付けで、ぐんぐん頭角を現している。

ちなみに「さび」は、「経年変化の中に美を見い出し、華やかなものとの対比を愛でる」というもの。そういう意味では、80年代90年代エレポップ、ディスコなど「長い年月を経て、一時期は”時代遅れ”とされたもの」に「不完全さ」という魅力を見い出し、そこに同時代的な音も加えてコントラストを打ち出しながら再構築する、という点において、まさに「わび」「さび」両方の日本人的美意識に則った表現を実践しているのかもしれない。

重要なのは、彼女がそれを“戦略”として意図的にやっていることだ。いや、彼女が生得的に持つ“勘”によって築き上げられた部分もあるかもしれないが、そうしたセンスも含め、彼女が逸材であることは間違いない。

まさに彗星のごとくアイドルシーンに現れた加納エミリ。2018年5月より活動を始め、当初こそ燻っていた時期もあったようだが、昨年秋頃から俄然注目を浴びるようになる。SAKA-SAMAとのツーマン、割礼や姫乃たまや3776などが出演した『ブラックナードフェス』、WHY@DOLLやユメトコスメ、脇田もなり、星野みちる、Orangeade、澤部渡らとの共演となった『涙』など、耳の肥えたリスナーたちの集まるライヴに次々と出演し、大きなインパクトを残してきた。2019年はさらなる飛躍の年となるだろう。あたかも撒き餌のごとく”ツッコミどころ”がちりばめられた中毒性の高いサウンドや振付けで、より一層多くのオーディエンスを“釣り上げる”ことは必至だ。

そんな加納エミリに、彼女独自のエレポップ・サウンド、そして振付けや歌詞、さらにはアイドル観などについてお話を伺った。

俗に言う“飼い殺し”ってやつですね(笑)

――2018年5月のデビューとのことですが、それ以前は…?

加納:東京の音楽スクールで1年間勉強をしていました。その後、あるレーベルで2年ちょっとぐらい…まぁ、水面下でですけど…お世話になっていました。

――それは“デビューを目指しての育成期間”みたいな感じだったんですか?

加納:そうですね。一応メジャーレーベルだったので、メジャーデビューできるように…。その時はライブ活動とかは全然できてなかったので、ひたすら曲を作り続けてた、って感じでしたね。

――そういうケース、結構ありますよね。

加納:俗に言う“飼い殺し”ってやつですね(笑)。

――あぁ…。

加納:全然書いていただいて構わないですよ(笑)。

――むしろ“書いた方がいい”ですか???

加納:むしろ!(笑)ハハハ(笑)。

――で、札幌のご出身なんですよね。

加納:はい。

――上京してきたのは高校卒業してからですか?

加納:高校卒業してから1年間は、札幌でバイトして、東京へ行くための資金を貯めて、その翌年に上京して、音楽スクールに入りました。

――音楽がやりたくて上京してきて、スクールで音楽を学んだ後、“飼い殺し”期間を経て(笑)、意を決してソロでやろうと。しかもフリーで。

加納:そうですね。ちゃんと始めたのが2018年の5月。

――それって、何かきっかけとかあったんですか?

加納:フリーで始めるきっかけですか? そうですね。最初からメジャーデビューってことしか頭になかったので、契約解除になったときはかなり落ち込みましたし、音楽やめようとは思ったんですけど、でもやっぱりやめたくないなと思って、まずはフリーになってデモテープを送りながら活動しようと…。最初はそんな気持ちでフリーランスになりました。

――どうですか? やはりメジャーデビューしたいっていう意識はありますか?

加納:いえ、今は「何が何でもメジャーでやりたい」という意識はなくて…。行けるところまでフリーランスでやりたいです。すごい“上から”で申し訳ないんですけど、メジャーって1つのツールにしか過ぎないと思ってるので…。メジャーの力を使って自分の目標を成し遂げるっていう感じなので、決してメジャーデビューが“目標”ではないです。

――なるほど。でも本当にそう思いますよ。今、周りを見てても相変わらず「メジャーデビューが目標です」って言ってる人が…

加納:かなり多いですよね。

――そうですよね。でも、もう目標にする必要はないのかなと。まあ、メジャーから声を掛けられたらやってもいいかもしれないですけど、まずは自分がやりたいことをやる。今は、まさに加納さんのように1人でもできますし、だんだん活動規模が大きくなってくれば、その時は“対等なパートナー”としてメジャーと手を組めばいいんですよね。

加納:そういう使い方でいいかなと思います。

――で、僕が加納さんを“見つけた”のが数ヶ月前で、最近のことは知っていますが、5月からそれまでは、どこでどのような活動をされていたんですか?

加納:やはりフリーランスってことで全然コネもパイプも何も無い状態だったので。なので、今はなかなかやらないらしいんですけど、ライブハウスなどにデモテープを送って出演させてもらっていました。そんな風にやっている内に、私のことを見てくださった地下アイドルの運営の方からメールいただいたりして徐々に活動範囲が広がっていって…。最初は秋葉原とかが多かったんですよね。でも、どうやら私は“アキバ系”ではないらしく、最初は全然ウケなくて、かなり苦しい日々が続きました。苦労しましたね。

――その頃ってどのくらいのペースでライブをやってたんですか?

加納:多い時は月に7、8回とか。1日に2回やったりしてました。

――バイトとかしながらですか?

加納:そうです。アルバイトを週4でやって、土日両方とも秋葉原とか、上野のほうにも当時出てた箱があって、そこでも時々やったりしてました。

――最近はもう、いろんなところから声が掛かるようになりましたね?

加納:そうですね、ありがたいことに…。皆さんのおかげですごい素敵な方ともご一緒させていただくことが増えました。だんだん活動してくにつれて、私のことを知ってくださる関係者の方が増えて、その関係者の方からイベントにお誘いしていただいたりとか、あとは私のことをTwitterで知ってくださった方からご連絡をいただいたりとか…。出るイベントが増えて、本当にありがたいなと。例えば、今すごくお世話になってるTRASH-UP!さんが運営しているSAKA-SAMAさんとか、あとは私が個人的にファンなんですけど、KOTOちゃんとか、そういう楽曲がすごく素敵なアイドルさんと一緒にやりたいなとずっと思ってたんですけど、なかなかそこには辿り着けず…。ようやく、だんだんと私も近付けるようになってきた感じですね。

――なるほど。

加納:だんだん自分の目指してる場所に近づいてきたかな、っていうのは実感してます。

――SAKA-SAMAさんとは先日ツーマンライブをやられましたよね。

加納:SAKA-SAMAさんは大好きなんですよ。すごく素敵で、顔も可愛らしくて曲もカッコいいみたいな。運営の屑山さんと連絡を取り合うようになって、SAKA-SAMAさんと会う機会が増えるなと思って、SAKA-SAMAさんのことをいろいろ調べたんです。音源とかライブ映像を視聴したんですけど、ホントに「アイドルっていいな」って思わせてくれるアイドルさんですね。自分も「アイドルになれてすごい素敵だな、素晴らしいな」って思うようになって、そう思わせてくれるSAKA-SAMAさんがまたスゴいなって。そういう方々と関われることがとても幸せだし、自分も「もっと頑張ろう」って改めて思わせてくれたんですよね。本当に素晴らしいなって。尊いなって。ただのファンです(笑)。

――KOTOさんとは?

加納:まだ面識もなくて。

――そのうち共演しますよ。

加納:2019年はぜひ共演させていただけたらいいなと思いますね。

――でも、そういう意味では、5月から約8ヶ月でこういう状況になってるって、すごいトントン拍子じゃないですか?

加納:そうですね。自分でも思います。でも、もちろん私一人の力ではなくて、本当に周りの方のサポートでここまで来てるので、自分もそれに応えられるように、これからも頑張りたいなって思います。

隙がある方が興味をそそられるじゃないですか

――Spotifyでプレイリストを作られていますが、それを見ると非常にヤバいですよね(笑)。

加納:どういう意味ですか?良い意味で?悪い意味で?

――もちろん良い意味でです。「本当に23歳なんですか?」みたいなリストじゃないですか(笑)。こういう音楽を聴いて育ったんですか?

加納:高校生の頃からそういう電子音楽が好きで、最初はEDMとかメジャーなものが好きだったんですが、色々と掘っていたら、「こういうのも好きかも」っていう風にどんどんハマっていって、いつの間にかニュー・ウエーブとかテクノとかインディーロックとかオルタナティブとかに行き着いたって感じですね。

――もろに親世代というか、まあいえば僕世代でもあるんですが…(笑)。ニュー・オーダーの『Bortherhood』とかは多感な時期にもうずっと聴いてました。やはりお父様の影響ですか?

加納:いえ、父からはあまり影響は受けていないですね。

――えぇええ! 完全にお父様の影響かなと思ってたんですけど…。

加納:父もすごく好きだったんですけど、でも影響はあまり受けてないですね。私が勝手に好きになったって感じです。「何かいい曲ある?」って父に聞いて教えてもらったことはありますけど、こういうものにハマる“きっかけ”ではないですね。

――お父様のCD棚から拝借してきた、とかありました?

加納:そういうのはないです。

――ご自身で掘った、と。CDを買っていましたか?

加納:CD…そうですね。YouTubeで一回聴いて良いなと思ったらCDを買うっていう…。

――でもプレイリスト見ると、もうマニアというかコレクターの感覚じゃないですか。例えば、若い方に好きな音楽の話とか聞くと、「YouTubeで見て、名前とかちょっと分かんないんですけど、ヒップホップとか好きです」みたいなことを言う人が多いんですけど、加納さんの場合はちょっとそういう聴き方じゃないじゃないですよね?

加納:あぁ、そうですね。まあでも、かなり偏ってるんですけどね。

――では、もっと遡ると、一番最初にハマった音楽って何ですか?

加納:一番最初ですか? 何だろう? 高校生の時にハマったのは、今ではすごい有名なんですけど、ブルーノ・マーズとか。

――あぁ、そんなところから!

加納:あとリアーナとか、超メジャーなものからまず入って。高校生の頃にはすごくEDMが海外で流行ってて、日本ではあまり知名度はなかったんですけど、ゴリゴリの、ちょっと耳がザワザワするぐらいのやつを聴いてました。で、一時期ダフト・パンクが好きになって、ダフト・パンクのことをもっと知りたいなと思った時に、ダフト・パンクのメンバーが昔やっていたバンドに現フェニックスのメンバーがいたとか、ダフト・パンクがザ・ストロークスから影響を受けてるといったことを知って、フェニックスとかザ・ストロークスを聴くようになると、そこからニューウェイヴに行き着いて、最初はニュー・オーダーとかデペッシュ・モードとかデュラン・デュランとかヒューマン・リーグなどを聴くようになって、さらにはノーランズとかカイリー・ミノーグとかマドンナとかその辺が好きになって…。で、こういう音楽がやりたい、それを今の時代にやりたいなって思ったんですよね。それが今の音楽活動の軸になっています。

――面白いですね。でも、こういう音楽をやるとなると、加納さんのような若い人は新鮮な音楽として捉えているかもしれないですけど、もしかしたら昨今の80年代90年代ブームに乗っかって、“戦略”としてやっているような人もいるような気がしますが、加納さんの場合はいかがですか? 新しい音楽を聴きながらどんどん掘っていったら、自分にピタッとハマる音楽を見つけたってい感じですか? 戦略ではなく、自分の本質とピッタリ合致するものですか?

加納:そうですね。一番自分が作りやすい音楽です。スムーズにやるには自分が作りやすくて、作りたい音楽をするのが一番だなって思って。それがモロに出ているのが「ごめんね」っていう曲ですね。

――あぁ、なるほど。ああいうサウンドがピタッとハマったってのは、どういう点にビビッと来たんですか?

加納:私、音数が多い音楽が好きじゃなくて、ちょっとスカスカな感じのチープな音楽にすごく興味があるんですよ。隙がある感じがすごく好きで。最近の日本の音楽ってかなり洋楽っぽくなってきてるので、質は上がってるんですけど、隙がなくて、聴いててちょっと距離を感じてしまうんですよね。

――なるほど。

加納:完成度の高いサウンドがどんどん出てきてる中、流行と逆に行ったほうが、もしかしたら面白がってくれるんじゃないかな、っていうか…。そうした“隙”があった方が親近感を抱いてくれるんじゃないか、と。例えて言うなら、完璧なオシャレをしてて、スタイルも良くて、顔も綺麗で、っていうパーフェクトなモデルさんよりも、可愛いけどちょっと変な色味の服を着てるとか、そういう隙がある方が興味をそそられるじゃないですか。「なんでそんな格好してるの?」みたいな…。そういう感じですね。

――あぁ、その方が引っ掛かりがありますよね。敢えて“突っ込みどころ”を作ってるっていうか。

加納:そう、“突っ込みどころ”! そういうアイコンとなるような存在でいたいです。

――なるほどなるほど。今いろんなことが腑に落ちた感がありました。

加納:良かった。

――そういう意味では、“アイドル”にもそういうところがありますよね。

加納:そう。アイドルになろうと思ったのは、それが一番大きいですね。

――では、加納さんが定義する“アイドル”ってどんなものですか? 今アイドルの定義って難しいじゃないですか?本当に多様化して。

加納:そうですね、かなり飽和もしていますし。

――でも、“アイドル”って名乗っていますよね。それもある種の“戦略”なのかもしれないですけど、加納さんが定義する“アイドル”ってのはどんなものですか?

加納:そうですね~、難しいな。定義かぁ…。私のやってることは、世間一般の人がイメージするようなアイドル像とは少し違うかもしれないですけど…。今私は「NEOエレポップガール」っていうキャッチフレーズで活動してるんですが、そういったアイドルの新しい可能性を少しでも多くの人に認識して欲しいなって思っていて…。「こんなアイドルがいるんだ、面白いな」ってちょっとでも思ってもらえるきっかけになりたいんですよね。“アイドルの定義”って分かんないですけど、すごくざっくり言うと、新しいアイドルの可能性を私が作りたいなって。かなり大きな話になっちゃったんですけど…。

――加納エミリが“可能”性を作れるように(笑)。

加納:恥ずかしい、すいません。あんまり熱い話は苦手で。めっちゃ恥ずかしいですね。ごめんなさい。

――いいじゃないですか(笑)。

加納:笑ってるじゃないですか(笑)。

――ちょっと見出しに使っちゃおうかなと思って。

加納:いやー、恥ずかしい。見出しは恥ずかしいです。

――(笑)なるほど。アイドルの可能性ですね。それは僕も考えてたところではあって。今のライブアイドルって、僕も一時期ホントに深いところまで観ていた時期があったんですが、人が見てないことをいいことに何でもやってる、って感じでしたからね。ホントになんでもありって感じで。

加納:分かります。かなりアウトローな人もいますよね。

――実際に体感したわけじゃないですけど、どこか70年代終わりのパンク勃興期みたいな、そんな空気感さえ感じるみたいなところもあって、本当に可能性がいろいろあると思いました。そして加納さんは、さらに新たな可能性を開くわけですね。

加納:そうなりたいですね。

――で、加納さんはそれを自分で作っているわけですが、作曲はどれぐらいから始めたんですか?

加納:ちょっとDTMをいじりだしたのは18歳の頃からで、それまでは全然曲を作ったことがなかったんです。本格的に始めたのは19歳の頃からですね。そこからDTMを勉強しました。

――時系列を確認しますと、まずはニューウェイヴやエレポップやテクノにハマって、そこからDTMを始めたって流れですか?

加納:そうですね。最初は「音楽やりたいな」ってだけの漠然とした気持ちで、なんとなく東京に来たっていう感じだったんですけど…。

――あ、DTMを始めたのは東京に出てきてからなんですね。

加納:そうです。

――音楽をやりたいなと思ったのはいつ頃からですか?

加納:中学校の頃から歌手になりたいなって憧れはあったんですけど…。

――その頃は誰に憧れてたんですか?

加納:その時は宇多田ヒカルさんが大好きで、今私がやっているものとは程遠いですけど…。宇多田ヒカルさんみたいな世界観がいいなって漠然と思っていて。高校時代もそんな感じで過して、でも音楽やりたいなってのはどこかにありました。

――楽器は何かやってましたか?

加納:いえ、楽器は未だに何も弾けなくて。もうパソコンだけです。

――では、宇多田ヒカルさんに憧れて、漠然と音楽活動がやりたいと思って、で、東京に出てきてからニューウェイヴとかエレポップにハマって、そこからDTMを始めた、と。

加納:そうですね。同世代の中ではちょっとだけ詳しいかなっていう状態だけで東京に出て来ました。

――でも、東京に出て来るって結構勇気が要ったんじゃないですか?

加納:地元の札幌にずっと居続けるのが嫌だったんですよ。別に地元が嫌いなわけじゃないんですけど、世間の狭さとかがあって、ちょっと居心地が悪いなと思っていたので…。誰も知らないところに行きたいなって思ってて、ずっと東京に出たいって気持ちはあったんです。東京で何かしたいみたいなって。それも最初は漠然とだったんですが、勢いで来たって感じですね。

――性格的には、あんまり考えずに勢いでいっちゃうみたいな感じですか?

加納:性格的には、う~ん…。かなり考えるんですけど、一度決めた事は曲げないですね。

――そう聞くと慎重な性格のように思えますが、漠然と東京に出てくるのはかなり大胆ですよね?

加納:確かに、言われてみれば。慎重にはなるけど自分のやりたいと思ったことには素直に行動するタイプなので、思わず大胆になってしまったのかもしれないですね。

――なるほどね。で、東京に出て来られて、DTMを始めて…。どんなものから作り始めたんですか?

加納:最初は色んなものを作ってました。自分は楽器ができないので、楽器を使わずにパソコンだけでできる音楽ってのを大前提として、いろいろ挑戦してましたね。色んな曲調のものを。

――それって誰かに教わったりとか、そういう学校に行ったりとかは?

加納:学校で教えてもらったことはあまりなくて、ほとんど独学ですね。Logicを入れて、ノートパソコンで作ってるんですけど…。

――始めた時からそんな感じですか?

加納:そうですね。同じソフトで同じMacで作ってます。

――なるほど。では、初めて人前で歌ったのはいつですか?

加納:人前で…。学生時代は中途半端に音楽やりたいという気持ちだったので、高校の文化祭で一度人前で歌ったことはあったんですけど…。

――何を歌ったんですか?

加納:aikoさんの「カブトムシ」(笑)。今でもカラオケの十八番なんですよ。でも、本格的なライブ経験とかはなくて、東京に出て2年目ぐらいの時に初めて本格的に人前で歌いましたね。最初はもう全然しょうもない感じでした。

――例えばバンド作ろうとか、そういう思惑はなかったんですか?

加納:そうですね。バンドやってみたいなとは思ったんですけど、でも本気で探そうっていう気持ちにはならなかったですね。

――あまり友達はいないんですか?(笑)

加納:友達いないですね…。

女の子のアイドルって、めちゃくちゃアングラな音楽でもポップカルチャーに持っていける唯一のアイコンだと思うんですよね

――ここからが一番聞きたいところなんですが…えーっと、まずはこういう質問をさせていただきます。自分のやってる楽曲に対する自己評価ってどうですか?

加納:自己評価ですか? 客観的に見てってことですよね。面白いことやってるんじゃないかなと思います。やっぱり他の人がやってそうでやってないことを私はやってるんじゃないかなと思います。

――先ほど「隙のある感じが好き」「隙がある方が親近感を抱いてくれる」とおっしゃってました。ちょっとこういう聞き方をすると語弊があるかもしれないですけど…

加納:何でも聞いてください。

――「“ダサい事”をやっている」っていう意識はありますか?

加納:そうですね。だからダンスもご覧の通りちょっと変な。あれも狙ってますね。

――なるほどね。ということはつまり、80~90年代のニューウェイヴやエレポップといった音楽が自分に一番しっくりきて、いわば「カッコいい」と思われたわけですよね? それを客観的に分析すると、その「ダサさ」とか「隙」っていう部分がカッコいい、と。

加納:そうですね。

――つまりは、「ダサいもの」を自覚して取り入れているわけですよね?

加納:はい。自覚してます。

――なるほどなるほど。ところで、ヴェイパーウェイヴってご存じですか?

加納:ヴェイパーウェイヴ? アーティストさんですか?

――いえ、そういうムーブメントっていうか。2010年代初頭に80~90年代のものを“ダサいもの”として捉えながら、それを面白がってイジって再構築するというか…。ある意味、ダサいものの中にカッコ良さを見出すというか…。先程おっしゃったように、キメキメってかっこ悪いじゃないですか。

加納:そうですね。

――例えば、アートの世界では廃材を使ったアッサンブラージュとか消費社会で大量消費されるものを使ったりしたポップアートとかがありますが、そういったものと同じ感覚で、80~90年代の“ダサい音楽”を素材に、ものすごくテンポを下げたりとか、チョップトとかスクリュードといった加工を施して新たな価値観を作り出すというか…。テープが伸びちゃったVHSの映像を観ているような感覚で、グワーンって音を曲げたりしながら、音楽でそういったものを作るって、それを面白がる、みたいなムーブメントです。

加納:面白そうですね。

――それはネット上のコミュニティーの間で広がっていったんですよね。で、どれだけ意識していたかは分からないんですが、日本にもヴェイパーウェイヴと捉えられていたアイドルがいて。Especiaっていうんですけど…。もう解散しちゃったんですが、80~90年代のディスコ/ブギーなどを今の時代に再構築してやっていたアイドルで、例えば「No1 Sweeper」っていう曲のMVでは、本人たちより大きなブロッコリーが海からバーンって出てくるみたいな(笑)、もうめっちゃダサいんですよ。

加納:そういうの好きです。家帰ったら観てみます。

――で、サウンドは加納さんとは異質のものですが、空気感とか、“音の在り方”みたいなものとか、に相通じるものがあるんですよね。

加納:今の話を聞いたら近いかもしれませんね。

――Especiaって聴いてましたか?

加納:聴いたことはないんですけど…。

――ぜひ聴いてみてください。今、ペシストが加納さんに結構食いついていますから。

加納:ペシストっていうんですか?

――はい。男性ファンは「ペシスト」、女性ファンは「ペシスタ」って言います。

加納:へぇ面白い。女性と男性で名称が違うんですね。

――Especiaって名前がもともとスペイン語で、ファンの呼称も「男性は語尾がo」「女性は語尾がa」って分けてるんです。

加納:そっかそっか。面白いですね。確かに、私を推してくださる方が皆さんEspeciaっておっしゃってるので、もしかしたら界隈的には近いんじゃないかとは思ってました。

――まあ、あの界隈はちょっとめんどくさいですけどね(笑)。

加納:めんどくさいんですか?(笑)

――めんどくさいですけど、音楽の知識はハンパないですよ。みんなものすごい音楽好きです。だから、Especiaは好きだけど、それ以外のアイドルは全然興味なくて、洋楽が好きとかR&Bが好きとか、そういう人が多いですね。

加納:おもしろいですね。そういうのすごく素敵だなって思います。私もそういうところに行けたらいいなって。

――ただ、“Especia警察”ってのがいますから。

加納:警察?

――つまり、アーティストやアイドル、楽曲などについて「これEspeciaっぽい」って言ったら、そういう人達が“SNS上で「全然違う」とか“判定”するんですよ。ある意味“警察”のように取り締まるというか…。

加納:厳しい。すごいですね。怖いですね。気をつけないと。

――「加納エミリ、Especiaっぽい空気感ある」みたいな事を書いたら、警察来ますから(笑)。

加納:怖い。でもそれぐらい熱狂的なファンがいるってことですよね。

――まあ、あまりEspeciaのことばっかり語ってもナンですけど、ちょっと似た空気感があるというか…。いや、“似た空気感”ではないかもしれませんが、“特別な空気感”を作っているという点では共通するものがあると思います。単に「昔の音楽をやってます」っていうんじゃなくて、そうした空気感を作れる人はなかなかいないんじゃないかと思いますね。そんな風に加納さんは、昔の音楽をなぞっただけでは出せない空気感を作られてると思うんですが、どうしてそんなことができるんですか???

加納:え? どうして…ですか…???

――ある種“レトロな音楽”を再構築していると思うんですけど、その時に工夫していることとか、気をつけてることとかありますか?

加納:使う音には気をつけていますね。古いことや懐かしいことを今また同じようにやっても、「古臭いことやってるな」で終わっちゃうと思うんですよ。それだけじゃ誰も食いついてはくれないと思うので、基本的には懐かしいメロディや懐かしい音を使ってるんですけど、今っぽい音も重ねてるんですよ。そこでちょっと印象が変わるんですよね。そういうのは大事にしています。ベーシックな音は「わー、懐かしい」っていう音を使って、けど、メロディとかどこかで必ず“今っぽさ”を入れるように常に気をつけてますね。

――なるほど。ある意味「ダサい」「チープな」っていうと、“ローファイ”を連想するんですが、やはり「ローファイなのかな」と思って聴くと、音がすごく良くて…。

加納:ありがとうございます。ところどころにデジタルな音を、アナログじゃなくてデジタルな音を組み合わせてますね。

――今の方向性だと敢えて音質を悪くするみたいなのも一つの手だと思うんですが、そうじゃなくて、やはり綺麗な心地好い音にしているのが特徴かなと。

加納:バランスってすごく繊細なものだなと思っていて、例えば「ダサい」とか「隙がある」っていうのを今は大事にしてますけど、そのままダサくなりすぎると、「なんだこれ、ただダサいだけじゃん」ってなっちゃうと思うんですよね。そこがすごく難しくて。ダサいことをやってるけど、音質的にグレードが高いとか、そういう“得点が高いもの”が一つないと、「ダサい」ことがカッコ良く映らないし…。

――あぁ、そうですよね。

加納:そのさじ加減がなかなか難しいところで。

――難しい所ではありますけど、そこを上手くやられてるな、という感じがします。その「ダサさ」「突っ込みどころ」をちゃんと提示しなきゃいけない、ってことですよね。そこがきっちりできてないとその「ダサさ」が分からない。つまり、「新しい音」「カッコいい音」が無いと、「ダサさ」が映えないというか…。

加納:はい、そうなんですよね。

――それはどこで学んだんですか?

加納:メジャーに入った時に「今の音楽業界はどうなってるんだろう」といったことを初めて考えて…。やっぱり私も売れたいので、「売れるためにはどういうことをやればいいんだろう?」って思った時に、こういう考えに行き着きました。完璧なものよりは、完璧じゃないけど面白いみたいな、そんな感じのほうが「近道かも」と思ったんですよね。

――そういう思いに至った経緯やキッカケなどありますか?

加納:でもやっぱり、日本の音楽番組とか、最近人気のアイドルとかを見ていると、なんか“隙間産業”ってあるじゃないですか。王道に対して隙間産業みたいな。逆に今“王道”って王道じゃなくなってるぐらい難しくなっていて、むしろ“隙間”を狙ったほうが面白がってくれるな、っていうことに気付いたんですよね。で、自分はそちら側になろうと思って、それをきっかけにいろいろ考えるようになりました。最初はアイドルになろうって全然思ってなくて、あくまでアーティストとしてやりたいっていう気持ちしかなかったんですけど…。

――そういえば、ご自身に関して「アイドルアーティスト」と名乗っていた時がありました。でも、先日のステージでは「アイドル」という風におっしゃってました。「アイドル」ですか?

加納:アイドルでもあるし、アーティストでもあるみたいな感じで…。ちょっとその辺はどういう風に言おうか、まだ模索してるんですけどね。

――ご自身で曲を作ってご自身で歌ってるわけで、音楽もいわゆる王道アイドルの音楽ではないですよね。なので「アーティスト」って言っても全然いい状況ではあります。でも、そこで「アイドル」っていう冠をつける意図は何ですか?

加納:そうですね。やはりアイドル文化っていうのがすごく好きで。アーティストだと、オーディエンスの目線も「アーティスト」って捉え方をするので、ちょっとカッコつけなきゃいけないっていうか、クールなのが前提というか、何て言うのか難しいんですけど…。でもアイドルってすごく多種多様で、「アイドル」っていう肩書きがあったほうが、自分のやってることがいっそう面白くなるんじゃないかなって思ったんですよね。あと、もう一つ思ったのが、以前から「自分の音楽をやるんだったら振り付けを付けたいな」と。でも本格的なダンスとかじゃなくて、サビの真ん中でちょっとした振りがあるぐらいで、“ダンス”とは言いがたいものなんですけど…。だからこそ、「アイドル」の方がそういったことをやりやすいな、と思いました。そんな私が「アーティスト」として活動すると、「私はアーティストです」って言い張ってるのに、周りが「アイドルみたいだよね」って絶対言われるだろうなと思って…。それがめんどくさいので「それならアイドルになろう」みたいな(笑)。アイドルって一部の人にはちょっと訝しがられるじゃないですか? ならば最初から「私はアイドルです」って言い張った方が気持ちいなと思って…。

――なるほど、なるほど。

加納:何ていうか難しいんですけど。

――それもある意味、ご自身で“突っ込みどころ”を作ってる、ってことになるのかもしれないですよね。

加納:あぁ、そうですよね。

――でも、ホントにアイドルって面白いですよね。

加納:ホントに面白いんですよ。大好きなんです。

――実に多様ですよね。例えば、僕が“バンド”をプロデュースすることになったら、やれることが制限されちゃうように感じるんですよね。

加納:そうなんです。アイドルって無限なんですよ。しかも女の子のアイドルって、めちゃくちゃアングラな音楽でもポップカルチャーに持っていける唯一のアイコンだと思うんですよね。例えばノイズとかアバンギャルドとかパンクとかハードコアとかそういう、それこそバンドとかアーティストがやったら、もうその界隈でしか盛り上がれないところを、アイドルがやることによって、例えばノイズミュージックでも無限の可能性が広げられるというか…。だから最近で言うとPassCodeさんとか、ちょっと前だとBABYMETALさんとかその典型的な例だと思うんですよね。そういう意味で、私も“アイドル”になったんです。

――それ、すごくよく分かります。僕も“楽曲派アイドル”っていう言葉でその面白さみたいなのをいろんな所で書いてきたんですが、その一つに「古き良き音楽を若い世代に伝承する」っていう役割を担えるんじゃないか、と。例えば、大人がシューゲイザーとかクラウトロックとかサイケデリックとか、そういった古き良き音楽を作り、でも、女の子たちはそんなの何も知らないで懸命に“アイドル”をやってる、みたいなところが面白いんですよね。同時にそういうのを知らない世代がシューゲイザーやクラウトロックなどに間接的に触れる。で、そこから加納さんみたいにどんどん掘っていってみたいな人が出てくる。そういう風に音楽の可能性が広がる。“伝承”ってことにもなりますよね。

加納:アイドルは唯一それができるツールなんじゃないかなと思います。

ちょっと変なことをしていかないと才能ある人には敵わないな、と

――で、加納さんの面白さの一つは、やはり“振付け”ですよね。

加納:ありがとうございます。

――僕が真っ先に惹きつけられたのが、「ごめんね」のあのポーズですよ。

加納:(左手を頭の上に乗せる“ごめんねポーズ”をしながら)これですかね?(笑)。

――はい。あれはホント、このままいったら『2019年流行ポーズ大賞』ですよ。

加納:そんな大賞初めて聞きましたけど(笑)。あるならぜひとも狙いたいです(笑)。

――まあ、まだ無いんですけど(笑)。でも、それぐらいキャッチーな、“引っ掛かり”のあるポーズです。あれはどうやってできたんですか?

加納:あれはもう、家で夜10時ぐらいのテンションで考えてたら出てきました(笑)。ダンス経験も無いので、ダンスに関してはホントにド素人なんですよ。多分プロの方が見たら突っ込みどころしかないと思うんですけど、それでいいかなと思ってて(笑)。

――プロには絶対あんなの作れないですよ。「ごめんね」って拝むポーズを頭の上に乗っけた感じですよね。振付けっていつもどうやって作るんですか?

加納:曲を作って、完成して、ひととおり聴いて、何となくイメージが湧いてきた時に「こんな感じの振り付けにしたいな」とか考えながら作っていってます。でも、やはり素人なので簡単に思い浮かんで来ないんですよね。なので、いろいろと調べて「このポーズいいな」と思ったものを取り入れたりしてます。

――オマージュしてるわけですね。

加納:そう、オマージュです(笑)。

――そのオマージュの中には、工藤静香さんとかWinkとか。

加納:あと小島よしおさんとか(笑)。

――「コマネチ」も。

加納:使わせていただいてます。

――色々とオマージュされていますが、オリジナルの振付けもありますか?

加納:「ごめんね」はかなりオマージュを入れてるんですけど、他の曲は基本的に頑張って自分で作ったものです。「ごめんね」以外は一応オリジナルですね。

――太極拳みたいなポーズとかもありませんか?

加納:あ、そういうのもあります。

――太極拳やられたりとか?

加納:全然やってないです。あくまでイメージですね。

――本格的な太極拳の型ではなくて、「上海の早朝の公園でやってそうな」ポーズをご自分なりに作ったわけですね。

加納:やってそうな、みたいなのを勝手なイメージで作ってます(笑)。

――あと、『ドラゴンボール』みたいなのもあります?

加納:あったと思います。あれも適当に作りました(笑)。

――振り付けを作るのにどれぐらい時間がかかるんですか?

加納:振り付けはそこまで重要視してなくて、なにか面白い動きだったらなんでもいいかなって思ってるので、1~2日で作ります。

――例えばそういうのって、完成したら自分で踊って映像に収めたりするんですか?

加納:一応映像に撮ってチェックして、「これでいっか」ってなったら決定みたいな(笑)。家のテーブルとかにスマホを置いて、ひととおり踊って、って感じです。孤独な作業ですね(笑)。ひとりで深夜1時ぐらいに変なことやって、「どうかな?」ってチェックしてます(笑)。

――なるほど。どの曲も最後のキメポーズがまたいいですよね。

加納:ハハ(笑)。

――キャッチーじゃないですか。 キャッチーなのか分かんないですけど(笑)。でも、時にバランスを崩すことがあります(笑)。

加納:まあ、あれは別に崩れてもいいかな、みたいな(笑)。振り付けに関しては面白かったらいいやって感じで、あんまり気にはしないです。

――でも考えたら、一番の引っ掛かりどころっていうのは、もしかしたら振付けかもしれないですね。

加納:一番分かり易いですもんね。

――そういう意味では、“戦略”はバッチリですね。

加納:ハハ(笑)。

――「懐かしい音と新しい音を混ぜるサウンド」とか、「“アイドル”という肩書き」とか、「突っ込みどころを設ける」とか…。ものすごいマーケティングセンスに長けてるって印象です。

加納:ありがとうございます。

――でも、生得的にそうしたものを察知するセンスは持っていて、でもセンスだけで押し切るというよりそうした冷静なマーケティングもしていて、って感じですよね。直感的に昔のエレポップが良いなと感じ取って、そういうのを作って歌うだけではなく、更にそれを魅力的に届けるように色々と工夫するというか…。

加納:ありがとうございます。そんな…。

――それを実践してるってことですよね? やはり天才ですね!

加納:天才じゃないです。逆に才能がないからこういうところで頑張るしかないって思ってます。私本当に才能がなくて、才能ないことを自分で痛いくらい分かってるので、そしたらもう正統派ではやっていけないから、ちょっと変なことをしていかないと才能ある人には敵わないな、と。そう思ってこういうことを始めたんですよ。

――それを思ったのは“飼い殺し”の時ですか?

加納:そうですね。世の中にはめちゃめちゃカッコいい音楽を作る人がいて、そういうものを聴いていると「ああ、この人には敵わないな」ってすごい思うんですよね。なので、「自分は才能ない」って自覚した上でどうしたらいいか、みたいなことしか考えてないです。今も。

――なんか若手企業家みたいな(笑)。

加納:照れます。恥ずかしいです。

やはり武道館ではやりたいなとは思います

――歌詞についても少しお聞きしたいんですが、作詞も全てご自身でやられています。作詞と作曲ってどちらが得意とか苦手とかありますか?

加納:私はメロディーが先に出てくることが多いんですが、まあでも、曲によってバラバラですね。歌詞が先に出来て、あとからメロディーをつけたりとかもありますし、色んな作り方をしてますね。

――なんとなくDTMやってる人って、“作曲”のほうが得意っていうイメージがあるんですけど、そうでもないって感じですか?

加納:どうだろう…。

――歌詞が先に出来ることもしばしばある、と?

加納:そういう時もありますし、逆にイントロから出来たり、本当にバラバラですね。

――『EP.1』のブックレットの歌詞を拝見すると、「ごめんね」なんて、楽曲と歌詞の内容がバッチリ合っているというか、それこそ80年代とかのトレンディードラマの1シーンみたいなイメージです。これは自然に出てきたものですか? それともそういうものを意識したり研究したりしたんですか?

加納:これは自然に出てきましたね。思ってることを書いただけです(笑)。

――もしかして実体験とか?

加納:基本的に歌詞は実体験とイメージが半々くらいです。この曲は実体験といえば実体験ですね(笑)。

――例えば「会いたいなんてさらさら思わない」という一節とか、「名前も思い出せない」という一節とか、きっと今のSNS時代の人だったらもっと違う表現になっていた気がするんですよ。

加納:そうなんですか?

――いや、分からないですけどね。僕の個人的な印象ですけど…。やっぱり80年代の香りがするんですよ。1987年に男女雇用機会均等法が出来て、女性が権利を主張するようになって、物言うようになって…。で、それより前の歌謡曲なら、こういうことがあると、悲しくて落ち込んで「でも頑張る」っていう風に帰結すると思うんですが、この詞では、ちゃんと言い返しているというか、「自分はもう未練はないのよ」って言っているというか…。そんな風に言い出したのがあの時代あたりからなのかなって。

加納:そうなんですね。

――今だと、もっとディスるか、反論せずに即デリート、みたいな言葉になるのかなって思います。そういう意味でも、あの時代の空気を捉えてるな、って。

加納:そんな風には考えてなかったですね。でも、そう言っていただけてすごくうれしいです。

――で、そんな中に「上書きするのよ」っていう一節があるんですが、80年代の女性を模して作ったとしたら「上書き」とは言わないと思うんですよね。

加納:「男は新規保存」「女は上書き保存」ってよく言われるじゃないですか。確かに女の子は「上書き」なんですよね。新しい彼氏ができたら、元彼のことはすぐに忘れちゃって新しい彼氏に夢中になるし、その新しい彼氏と別れて次に好きな人が出来たら、またその人のことに夢中で、みたいな。

――もしかしたら加納さんの世代からすれば「上書き」っていう表現は自然に使っているのかもしれないですが、これってやはりパソコンが普及してからの表現だと思うんですよ。

加納:そっか。そうですね。

――もちろんそれ以前から「上書き」って言葉はありました。例えば手紙の時代でも、修正液で消して上から書くことを「上書き」って言えますけど、「上書き」っていう表現が日常的に使われるようになったのは、やはりパソコンが普及してからだと思うんですよね。で、例えばこの歌詞が80年代を意識したものなら、「上書き」ではなくて他の言葉だったかもしれないですけど、ここに「上書き」という“80年代より新しい表現”を意図的に入れているのかなと思ったんですが…。でもそれは自然に出てきたんですか?

加納:そうですね。

――やはりそれは、どこか天才的な感覚があるんですよ。

加納:やめてください(笑)。才能なんてないです…。

――そして、それが“引っ掛かり”になっているわけです。

加納:そうですか。うれしいです。

――2曲目の「Next Town」ですが、これも実体験ですか?

加納:これは実体験じゃなくて、イメージで何となく作ったって感じです。

――まさにこれは「東京に出てきた時の心境」なのかなって感じがしたんですけど、そうじゃなくてイメージですか。

加納:恋愛以外の曲を作りたいなと思って適当に作りました(笑)。前向きな曲がいいかな、って。

――上京した時の心情かなと思ったんですけど違うんですね。

加納:でも、東京に出てきた時の曲を作りたいなとずっと思っていたので、そんな気持ちが若干反映されているかもしれないですね。

――「憧れの街」という部分も具体的なものをイメージしてるのかな、なんて思ったんですが。「自由が丘」とか。

加納:ああ、渋谷をイメージしましたね。

――渋谷ですか。

加納:渋谷109の辺りをイメージして。それ以外はそれっぽい感じの歌詞でいいやと思って作っちゃいました(笑)。

――では、続いて「ハートブレイク」。これは最後にどんでん返しでもあるのかなと思ったら、そのまま…

加納:ひたすら重い感じですね。

――これは実体験ですか?

加納:実体験です(笑)。

――逆にこれは実体験なんですね(笑)。

加納:過去の失恋体験をもとに作りました。もう殴り書きのような感じで(笑)。

――“アイドル”加納エミリとしては今は恋愛禁止なんですか?

加納:あんまり恋愛の事考えられる暇がないです。ありがたいことに最近は忙しくさせていただいてるので、もうそっちが一生懸命で、恋愛はあまり…(笑)。

――では、そろそろ締めに入ります。では今、目標とかありますか? 例えば「武道館でやりたい」とか、「メジャーデビューしたい」とか。

加納:やはり武道館ではやりたいなとは思います。でも今はまだまだだと思うので、4年後か5年後くらいには。とりあえず2019年の目標は、とにかくたくさん音源を出して、ライブもたくさんやって、たくさん加納エミリを知ってもらいたいな、と。そういう機会をもっと増やしたいなと思います。

(取材・文:石川真男)

加納エミリ ライブ情報

2019年2月13日(水)加納エミリ大生誕andリリースパーティ

会場:新宿Motion
OPEN 18:30 START 19:00
前売:2500円 当日 2800円(+各D代)
出演:加納エミリ、脇田もなり、KOTO、SAKA-SAMA

加納エミリ 商品情報

発売中
『EP1』

加納エミリ公式オンラインショップ、ディスクユニオンにて発売中。
また大阪ではハワイレコードでも取り扱い決定!


2月13日リリース

「ごめんね/Been With You」7inch盤
NRSP-755

加納エミリ公式通販のほか、HMV、タワーレコード、各レコードショップにて発売予定。
リリースイベントも開催決定!

加納エミリ プロフィール

80年代のエレクトロサウンドと現代のポップスを融合した、”NEO・エレポップ・ガール”。
作詞、作曲、アレンジ、振付など全てを自らで行うセルフプロデュースアイドルとして2018年5月より本格活動中。
2019年は『リリース・プロジェクト』と称し年間CD-Rを3枚、フルアルバムやサブスク配信などリリースに注力する。


公式ツィッター@EMILY_k0213


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